はじめに

 

この報告集は、早稲田大学第二文学部の社会・人間系専修基礎演習のひとつとして設置されている演習「現代都市をめぐる社会と人間」の2001年度の報告である。こうした年間の各学生の成果を冊子にまとめる試みは、旧カリキュラムの教養演習から続けてきたが、数年前に予算不足や時間的な制約から中断せざるをえず残念に思っていた。今回は、このようなかたちでメディアの力を借りて新たに学生の発表の場をつくってみた。何よりも書いた学生、及びこれから書こうとする学生にとって、これから続く学生生活の刺激になればと願っている。

この報告集は、大学一年次の学生達が、前期の助走期間での議論を踏まえて、各自夏休みを含めて翌1月までの約半年間かけて書き上げた論文を掲載している。この報告集は、参加した学生が悩みながらひとまず到達した地点を互いに確認する機会として設けたものである。このような報告集にまとめるという機会を学生自身が意識することで、自ら問題にすべき事柄を探索しそのテーマにそって自分の考えを整理し各種の文献や資料調査、実地調査等を経て執筆する<基本的な営み>がより磨かれる効果を期待して始めたささやかな試みであったが、情報機器の発達のおかげで、こうしたかたちで発表できるようになった。学生が自分の書いた物の良さ悪さを相対化して眺めることができ卒論執筆に向けて何らかの反省材料が得られれば幸いである。

2001年度は、前期の授業で、都市の近代から現代にかけての移り変わりが意識できるような、都市の社会問題を取上げた小説やドキュメンタリー、映像作品などを取上げて学生達と読み、その内容と社会的背景を理解し、扱われているテーマをできるだけ現代の社会状況に即して把握しようと努めた。また、そうした素材を介して現代に住む我々がさらに考えていくべき事柄を自由に提示しあい、学生の社会諸現象に対する問題意識ができるだけ高まるようにした。

  そのうえで、夏季の長期休暇中に、授業のなかで出された地域社会を取り巻くさまざまな課題のなかから、各学生がとくに関心を寄せるテーマに関して実際の地域調査等を交えた長文のレポートを学生に書いてもらった。後期の授業では提出されたレポートの内容を踏まえて、学生同士の討論、教員との意見交換等を主体にした授業を行い、レポートの内容を吟味しさらに内容を高めるように試みた。こうした過程を経て冬休み後に最終論文として提出されたものが、この報告集に収められている。

今年度の場合も、学生一人ひとりの授業参加意欲にかなりの差があった気がしている。一方で非常に学習意欲が高く自分で選択したテーマにかなり踏み込み、時間をかけて問題意識を発展させようとするものがいた一方で、そうでなく空回りし続けたものも少なからずいたように思う。ここに載せられている論文を読んでもその違いが現れている。

ただし、これらの論文の背後に、自分の現在を改めて問い直そうとする試みがそれなりにこめられ、学生一人ひとりの生き様や問題意識が詰まっていることは事実である。これから、学生達が成長していく中で今回の経験を生かして、問題意識の開拓、資料収集や整理・分析の方法、論理構成とロジックの展開、文体やまとめかたの各側面で、パワーアップしていくことを期待したい。また、今後、学生同士が互いの努力と格闘の跡を確認し合うことで刺激を受け、これからの大学生活を十分生かして、新鮮な感覚を武器にさらに地域社会に関わる問題関心を深めていってもらえれば幸いである。

2002年3月20日

 

第二文学部 社会・人間系専修基礎演習3

担当教員  浦野 正樹